(※全て本家トピックよりコピペ改変。
 以下七通目〜十三通目+α)


【七通目】


(2013/09/09_夜)

 こんなことを始めて七日になる。
 つまりアンタは、一週間に渡りこの精神攻撃に曝されてるわけだ。
 ……許容範囲広過ぎんだろ。

 そんなアンタからすれば、誰かにそっと告げた生い立ちやらが半ば不特定多数に公開される現状もどうでもイイのかな。
 オレはアンタのこれまでの人生に興味はあるけど、そんな伝聞はどうでもイイんだ。
 一番大事なのは、今この瞬間、アンタがオレの前に生きてることで。
 何も知らない癖に、その為だけにアンタの人生の全てを肯定したくなる――アンタが自分の人生を否定してなくて良かったと思う。

 ___。もし、アンタがオレの為の言葉を選んで過去をその口から話してくれたら、とても嬉しい。
 ……アンタからは、オレはどんな人生を送って来たように見えるんだろう。


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【八通目と九通目】


(2013/09/10_夜)
(2013/09/11_夜)

(他愛ない事と好意の言葉が散らされた、いつも通りの手紙。
 例えば――『――けど、アンタがこれを読んでくれてるのは“知って”る。アンタがあの小さなお姫サマを悪いようにしてないって“知って”るのと同じように。』
 ……そんなような。)

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(許される限りに言葉の雨を。
 拒まれぬ限りに想いの雨を。
 雨だれはやがて石を穿つもの――誰かが“仮面”と呼ぶそれに、穴の開くように。
 今日までアンタを生かした尊いそれを溶かして、アンタの中の苦しくない所へ運ぶように。
 雨だれは染み通るもの――或いは誰かが“仮面”と呼ぶそれをすり抜けて、奥に届くように。

 もしかしたら、これは“毒”。何かを冒す毒。
 Aradiaは毒の女神でもあるから、吐く息の全てに、それが含まれてることだってあるんだ。)


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【十通目】


(それは便箋のマジカルレターを用いて送られた。
 ただ、翌日からは、何事もなかったように元に戻るのだ。)


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【十一通目】


(2013/09/13_夜)

 全く、今更そりゃあない!
 一つの確信は、アンタの言う通り、イエスと「言わせる」ことは「ほぼ」無意味ってことだ。
 だから今頃に立場を翻そう。『オレはアンタがイエスと言わなくても何かをする。けど、本気でノーと言ったらやめる』。

 オレの見るアンタこそがアンタなら、こんなオレに律儀に付き合ってるアンタは「気まぐれ」じゃないと言おう。
 そして丁寧に書かれた返信は、その手紙の中だけでも、日頃の言動と重ね合わせても、矛盾が見える。
 オレを混乱させる為に言葉を選んでるなら大成功だ。けど、アンタがこれを矛盾と思わないか、気付いてないか、見ぬふりをしてる可能性の方が大きいようにも思う。

 もう一つの確信は――アンタは、オレよりずっと「マトモ」だってこと。狂人でないのは"知って"たけど、ここまでとは思わなかった。
 ___。アンタはかわいらしいと思う。好きだよ。どうあっても。


追伸:
 別で小包を送った。そっちも見て欲しい。


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【十二通目】


(2013/09/14_夜...便箋のマジカルレターで送られた。)

 盤上遊戯になぞらえるなら、一つ話をしよう。
 三十人に一人の――東だと千人に一人らしいが――“異形”、本物の異常者、異常人格者、狂人の話だ。

 異形は良心を持たない。罪の意識を感じない。責任という概念が無い。穢れという概念が無い。
 感情が希薄で冷淡、しかし退屈を極めて嫌い、常に刺激を求め、衝動的で、他人に共感しない。
 異形にとって価値があるのは己だけで、他のすべてはなぞらえる必要もなく遊戯盤の駒、退屈を紛らわし自分の生活を支える道具だ。
 正気や弱者を巧みに装い社会に溶け込み、他人を上から支配し、下から寄生し、捕食する。
 己の利益――些細な暇潰しを含む――の為に嘘を吐き傷つけ利用しレイプし捨てる。
 但し彼らは衝動に支配されない限りは慎重で狡猾だから、一部のサイコキラーを除けばそれらの行いは目立たない。
 異形は何かの一部に執着する事はあっても何か自体に愛着を持つことがない。
 異形は悲しまない。傷つかない。苦しまない。身の危険を顧みず、死を恐れない。

 アンタは異形じゃない。息も吐けない苦しみさえ演じてるのでない限り。
 オレも此処までイカれちゃない。社会に馴染む術は、異形の方が優れてるかもしれないけど。
 アンタはこういう“異形”を、悪だと思う? 悪魔や堕天使に例える? どう扱う?
 オレは悪だとは思わない。確かに人類社会のシステムにエラーを引き起こす因子だろう。
 けど、それはただそういうき物であるというだけで、それって別に、悪いことじゃないと思うんだ。

 いわんや、オレがアンタを悪やそれに類するものと見ると思う?
 ___。アンタはオレなんかよりずっと真っ当だ。こんなことは、ルインにも言ったけど。
 オレが惹かれる異常性に似た何かは、一皮剥けばオレより真っ当で。
 なんでそういうものに惹かれるのかって言ったら、羨ましいのかもしれないって、少しだけ思う。
 だけど、そう。「そういう風になりたい」とは、思わないんだ。
 オレは、オレに見えてる世界が嫌いじゃない。例えば、アンタを無条件に好きでいられるから。

 ___。
 オレに対するアンタの見立ては、きっと猛烈に甘い。アンタに限ったことじゃないけど。
 アンタに対するオレの見立ても甘いのかもしれないけれど、オレはそれをなお呑み込める暗黒で、幼い獣みたいなものだ。
 なぜアンタに限らず見立てが甘くなるかって、そりゃ、オレが理解し難い非定型だからだろう。

 たぶん、長々と接してたらその内分かる。分かりたくもない?
 何にせよ、今日までの時間は、ちょっと足りなかった。
 だからまた、これから。


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【十三通目?】


(2013/09/15_夜?...枕の下に。)

 生まれてきてくれたこと。
 今この瞬間まで生きていてくれたこと。
 オレと出会ってくれたこと。
 死なずにいてくれたこと。

 そういう全部を肯定したいって、ずっと伝えようとしてたんだ。
 そしてアンタの口から話を聞いて、その上で、唱えたかったんだ。
 生まれてきてくれてありがとうって。
 此処まで歩いてきてくれてありがとうって。

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(尤も、枕の下に仕込んだところで、起きるまでずっと隣に居るつもりだけれど。)


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【None】


(その十三通で、日々費やす作業は終えられる。

 ――十三とは、一年のうちに訪れる満月の数である。偶然にも。)


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